プロジェクトマネジメントの原理・原則。プロジェクトを成功させる12の鍵

PM Handbook by Repsona
プロジェクトマネジメントの原理・原則。プロジェクトを成功させる12の鍵

ここまで、プロジェクトマネジメントとは何かや、プロジェクトの価値実現についてみてきました。プロジェクトという得体の知れないものは、実はなにかコントロール可能な具体的なものであり、プロジェクトの価値を実現するためには、特殊な能力や豊富な資金ではなく、人と人の情報の流れ、方向性の一致が重要であるということが見えてきたと思います。

現代のプロジェクトは不確実性に満ちています。知識や手法を習得すれば必ずうまくいくものではありません。なんどでも経験し、失敗することが糧になっていきます。第6版までの PMBOK では、知識体系をベースに、プロセスと成果物を管理することでこれらをコントロールできると信じる世界観の中に成り立っていたように思います。しかし、PMBOK 第7版 では、「成果物」よりも「価値」を重視し、「プロセス」よりも「原理・原則」を重視する形となりました。

前章では「価値」についてみてきました。とても人間味のある、人が中心となった考え方であったと思います。次は「原理・原則」をみていきましょう。「時間とコストとスコープ」の話でしょうか。「リスクの明確化」の話でしょうか。いえ、こちらもとても人間味のある、原理・原則です。

最も重要な四つの価値

世界中の様々な業界で、様々なプロジェクトを経験してきたプロジェクト実務者からなるグローバルなプロジェクトマネジメント・コミュニティにとって、最も重要と特定された四つの価値は「PMI倫理・職務規定」として以下の通り特定されました。

  • 責任
  • 尊厳
  • 公正
  • 誠実

そうです。能力や経験、資金や人脈ではありません。仕事を前に進める心構え、考え方の基準や価値観こそが、プロジェクトを成功させるために重要であると位置付けられているのです。

そして、PMBOK ではプロジェクトマネジメントの指針を提供する12個の原理・原則が導き出されました。

  • 勤勉で、敬意を払い、面倒見の良いスチュワードであること
  • 協働的なプロジェクト・チーム環境を構築すること
  • ステークホルダーと効果的に関わること
  • 価値に焦点を当てること
  • システムの相互作用を認識し、評価し、対応すること
  • リーダーシップを示すこと
  • 状況に基づいてテーラリングすること
  • プロセスと成果物に品質を組み込むこと
  • 複雑さに対処すること
  • リスク対応を最適化すること
  • 適応性と回復力を持つこと
  • 想定した将来の状態を達成するために変革できるようにすること

難しい言葉も出てきましたが、ベースとなっているのが上の「最も重要な四つの価値」であることがわかると思います。知識やツールでプロジェクトをコントロールしようとする前に、プロジェクトマネージャーとして重要な考え方、心構えについて、もう少し詳しくみていきましょう。

プロジェクトマネジメントの12個の原理・原則

これらの心構えはプロジェクトマネジメントの指針となりますが、どのような状況であれ全ての原則を守り抜かなければいけないというものではありません。会社やプロジェクトや関連する別の組織などの影響を受けながら、プロジェクトは生きています。その中でもっとも自分達のプロジェクトにあった考え方、心構えで、仕事に向き合ってください。

勤勉で、敬意を払い、面倒見の良いスチュワードであること

スチュワード(Steward)とは、管財人、執事、世話役などの意味を持つ言葉です。フライトアテンダントはかつてスチュワーデスと呼ばれていました。これはスチュワードの女性形です。この言葉は「これは女性がする仕事」という固定観念を広めてしまうとして現在では使われなくなっています。

スチュワードの仕事はどういうものでしょうか。何かの、誰かの世話をすること。責任を持ってお金を使って、計画的に何かを実行すること。正しい状態を維持すること。このような役割が考えられます。

「スチュワードである」とは「スチュワードシップを発揮する」と言い換えることができます。組織やプロジェクトマネジメントでいうスチュワードシップとは、どういうことでしょうか。

会社や組織の目標や目的を理解し、仕事を行うこと。プロジェクトメンバーやチームメイトが必要な時に自分達の力を発揮できるように調整すること。メンバーに報酬を与え、そして、敬意を払うこと。会社の設備の管理やルールの策定。これらに責任と行動が伴うこと。このように表現することができそうです。

プロジェクトはそのメンバーの人生だけでなく、プロジェクトの価値によって影響を受ける人たちの人生にも影響します。プロジェクトマネージャーはあらゆる影響を意識しながら、責任のある意思決定をしなければいけません。誠実であること、面倒見が良いこと、信頼されていること、そして法律や規則などを遵守することが求められます。

協働的なプロジェクト・チーム環境を構築すること

協働的とはどういう意味でしょうか。

同じ目的のために、対等の立場で協力して共に働くこと。

プロジェクト・チームは、さまざまなスキルや経験をもった「人」が集まって作られます。いろいろな人がいるので、どのような組み合わせであれ、うまく動くチームそうでないチームになり得ます。プロジェクトマネージャーはチームメンバーがより協働的になるよう、チームの環境を構築することが求められます。決して上下関係を基準に、権力で命令するものではないのです。

誰にどのような役割が期待されているのかを明確にし、チーム全体で合意します。プロジェクト全体の仕事をタスクに分解し、それぞれで分担して実行することになるでしょう。このとき、役割と責任を明確にすることで、チームの文化はより良いものへとなっていきます。各メンバーの権限と、説明責任の所在、実行責任の所在を明確にしましょう。

ステークホルダーと効果的に関わること

ステークホルダーとは、利害関係のあるすべての関係者のことです。プロジェクトのチームメンバー、チームの所属する会社、組織、成果物を依頼する上司、取引先、会社をとりまく社会など。ステークホルダーはプロジェクトに対して、良い影響も悪い影響も与えうるわけです。

プロジェクトに対する要求事項、スケジュールやコスト、プロジェクト全体の計画やプロジェクトそのもの成否にも影響することでしょう。

プロジェクトマネージャーが、関わり合いを持つべきステークホルダーを明確にし、効果的な関わりを構築することで、プロジェクトは成功につながりやすくなります。ステークホルダーがどのような深さで、どれくらいの頻度で関わりを持ちたいかを見極め、双方向のコミュニケーションを通じて、良い関係性を構築することが大切です。

決してステークホルダーの言いなりになるのでもなく、プロジェクトからの要求だけをするのでもなく、誠実に、誠意を持って、信頼関係を築くことで、潜在的な悪い影響を最小限に抑え、良い影響を最大限に高めることができるのです。

価値に焦点を当てること

「価値」はプロジェクト成功の究極の指標です。価値が実現できてこそ、プロジェクトが成功したと言えるわけです。報酬を受け取り、成果物を生み出したとしても、それにより価値が実現できなければ、プロジェクトとしては成功とは言えないということです。それが「価値」です。

価値は「よりお金を稼げるようになる」「より便利で効率的になる」「より社会的に意味のあるものになる」などのようなものをさします。これらはプロジェクト立ち上げの時点で、目的として明確化されます。ビジネス的に必要かどうか、本当に実施すべきことかどうか、会社や組織の方向性と一致しているかどうか。このようなことを相互に検討し、実現するべき価値を明確にします。

何を作れば良いかが明確になっていたとしても、それで価値が実現できないかもしれません。プロジェクトマネージャーは成果物だけをゴールとするのではなく、価値にフォーカスしてプロジェクトを進める必要があるということです。

システムの相互作用を認識し、評価し、対応すること

ここでの「システム」とはインターネットや機械のことではありません。「仕組み化(Systematization)」という考え方が近いでしょう。組織全体は大きな仕組み(システム)になっていて、その中の各部門(各機能)も、それぞれ仕組みとして相互に作用しています。それぞれの仕組みがどのように関連しているかを、よく理解することです。

システムも多くは「人」からなります。ですので、常に変化し続けるものであることに注意しなければいけません。プロジェクトの外を含む全体はどうなっているのか、事業はどうなっているのか、前提条件は正しいかなどの視点を持ち、外部からのアドバイスや、これまでの組織としての成果物や習慣なども活用しましょう。プロジェクト全体を調整しやすくなり、リスクが特定しやすくなります。

リーダーシップを示すこと

「リーダーシップ」とはなんでしょうか。強い権限を持ち厳しく命令をしてチームを動かすことではないようです。ビジョン、創造力、動機付け、熱意、励まし、共感はプロジェクトに良い影響を与えるとされ、こうした影響を与える態度、才能、特性、振る舞い、こうしたものをリーダーシップと呼びます。

リーダーにもいろいろなスタイルがあり、独裁型、民主主義型、自由放任型、指揮型、参加型、主張型、支援型、合意に向けた独裁型などがありますが、どれが一番良いというものではなく、状況によって力を発揮するスタイルは異なります。例えば、混乱している状況では指揮型が物事を進めやすいですし、ハイスキルでやる気のあるチームの場合は自由放任型が一番生産性を発揮することもあるでしょう。

状況に基づいてテーラリングすること

テーラリング(tailoring)とは洋服の仕立てという意味です。転じて、プロジェクトを進めるにあたり「過不足ない」プロセスを使用するように調整することを指します。プロジェクトには大小さまざまなものがありますし、深刻度の違いもあります。3日で終わる作業に毎週のミーティングとアジェンダを定義したコミュニケーション計画書を定義することは無意味ですし、1年かかるプロジェクトに計画書がないのは不安で仕方ありません。どのようなプロジェクトにも全て同じプロセス、やり方を適用することは望ましくないのです。

PMBOK 第7版ではテーラリングを一つの章としてまとめており、重視しています。方法論やプロセスを、プロジェクトにそのままあてはめるのではなく、チームにとっての有効性を慎重に評価して適用することが、プロジェクトにとっての生産性向上に役に立ちます。また、テーラリングはプロジェクト開始時に一度だけ行うものではなく、プロジェクト進行中にも継続的に実施していくことが望ましいです。

プロセスと成果物に品質を組み込むこと

プロジェクトを進めるにあたってのプロセスと成果物が定義された時、継続的な活動の中で「品質」が見落とされがちになることを指摘しています。プロジェクト活動中、品質に継続的に焦点を当て、その成果物は要求事項を満たしているのか、受け入れ基準を満たしているのか、ステークホルダーの期待を満たしているのかを確認する必要があります。

品質は暗黙的に期待されている場合もあります。機能は詳細に明確に文書で定義されているが、デザインやパフォーマンスが定義されていない場合などです。できるだけ早く成果物を提供し、継続的な確認とフィードバックにより、認識の齟齬や欠陥を早期に発見し、手直しを減らす活動が求められます。

複雑さに対処すること

まず、そもそもプロジェクトというものは複雑で完全に計画通りに進めることができないものであるという認識を持つことです。どれだけお金と時間と能力があっても、不確実な未来を完璧にコントロールすることはできません。この複雑さに対処することが、プロジェクトマネージャーには求められます。

プロジェクトには相互に作用する組織、システム(仕組み)、人があります。人の振る舞い、システムの振る舞いは体調や感情、それに伴う行動に大きく左右されます。作業量を見積もって入念にたてた計画も、トラブルが起きたり、新たな課題が生まれたり、ひとつの作業に予想以上に時間がかかったりなど、不確かさや曖昧さをなくしきることはできません。イノベーションが起きて、現在のプロジェクトの目標が大きく変わることもあるでしょう。

プロジェクト活動期間を通して、継続的に複雑さの要素に着目しながら、自身や組織の過去の経験や学習をもとに、それらに対処する能力を高めていくことで、プロジェクトの成功活率があがるとされています。

リスク対応を最適化すること

「リスク」とは、不確実な出来事や、不確実な状態のことです。リスクが現実になった場合、プロジェクトにとってマイナスの影響を及ぼすことも、プラスの影響を及ぼすこともあります。プロジェクト全体にどのようなリスクが存在するのかを把握し、プロジェクト活動中、継続的に監視して対応する必要があります。

何をリスクとして取り扱うのか、プロジェクトとして基準を持っておかなければいけません。リスクとして取り扱う場合、その重大さに見合っていて今取り組むべきことかどうか、取り組むことに対する費用対効果はどうか、現在のプロジェクトの状況をみて現実的であるかどうかなどを考える必要があります。また、リスクとして取り扱うことを関係者が同意しているか、リスクに取り組む責任者が任命されているかも重要になってきます。そうでなければ「リスクを受容する」という判断をすることになります。

適応性と回復力を持つこと

「適応力」とは、変化する状況に対応する能力のことです。「回復力」とは、何かトラブルが起きた時にその影響を最小限にする能力や、失敗などから立ち直る能力のことです。どのようなプロジェクトも、活動中のどこかの段階で、難題やトラブルなど、順調に進まない壁にぶつかります。トラブルは必ず起きる、失敗はつきものという心構えで、適応力と回復力を持つことが求められます。

成果物よりも成果(価値)にフォーカスすることで、計画通りにうまくいかないことがおきても、そこから得られるフィードバックを元により良い方針や解決策が見つかることがあります。こうした変化も継続的な計画の中に盛り込みながら活動することで、適応力と回復力を備えたプロジェクトチームとなっていきます。

想定した将来の状態を達成するために変革できるようにすること

「変革」とは「変わること」です。この文は『「新しいやり方を導入してもっと良い会社になるために変わる」ことができるようにすること』という意味にとれます。変革そのものではなく、「変革できるようにすること」が求められているということです。

「変わらないこと」は、安定していて落ち着いている様を表しています。「変わること」は多くの場合において、困難さがあり、挑戦的であり、抵抗を受けることもあるでしょう。一方、プロジェクトが本質的に価値を提供するために、その成果物や成果が価値を発揮できるように、それらの利用者は「変わる」ことが求められます。プロジェクトマネジメントの原則として「変革できるようにすること」が重要なのです。

「プロジェクトマネジメントの原理・原則」まとめ

プロジェクトマネジメントの12個の原理・原則を見てきました。これらは、プロジェクトマネジメントをするなら必要な能力や経験、規則やルールのようなものではなく、プロジェクトマネジメントに携わるのであれば心にとどめておくべき考え方の基準や価値観といったものです。

あらゆる知識を駆使すれば、ツールやフレームワークを活用すれば、多くの資金や人脈や権力があれば、プロジェクトは必ず成功するというものでは決してありません。どのようなプロジェクトをどのような人が進めたとしても、どこかのタイミングで必ず想定外の事態が発生します。その時にどのようにプロジェクトの舵をとるのか。トラブルが起きている時こそ、責任、尊厳、公正、誠実を強く心に持つことが求められます。

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